徒弟制度の利点

ある大病院の幹部、ベテランの外科医の先生が言った。
医者は忙しいので、研修医に教える時間がない。
研修医の制度は、官僚が机上の空論で作ったもので、現場ではうまく機能していない。
昔の医局制度の時は、いわゆる徒弟制度なので、
ずっと一緒に働くことになる自分の弟子にみっちり教えた。
研修医は、あくまで研修であり、その病院に就職するわけではない。
だから、本当の医療は学べない。
その状態で、彼らは医療現場の第一線に出されてしまう。
そこが今の研修医制度の問題点だ。

徒弟制度。
料理人や、物作りの世界など、高い技術が求められる世界でも、徒弟制度は崩れ始めている。
弟子入りして、一人の師匠からみっちり仕込まれるのではなく、
専門学校や塾などで学び、その職業に就く人が増えている。

学校という制度は、ある一定の水準の技術を持った人間を大量に生むことはできるが、
飛び抜けてある部分のレベルが高いという人材は育ちにくい。

政治の世界もそうだ。
ここ20年、新党が乱立したことで、候補者が急に必要になり、○○政治塾などで、促成栽培している。
しかし、表面上、選挙は戦えそうなそこそこの人材は輩出できても、
この難局を舵取りできるような力を持った人材は、そこからは生まれていない。

スポーツの世界は、少年時代に憧れの選手の真似をすることから始まる。
レベルの高いプレーを見て、自問自答の練習の末、天才選手は生まれる。
体育の教科書に書いてあることを丸暗記しても、一流選手にはなれない。

イタリア料理のある巨匠が私に言った。
僕の書いたレシピ通りに作っても、残念ながら、この味はできないよ。

政治の世界もそうである。
有名な古典、マックスウェーバーの「職業としての政治」に書いてあることを全て理解しても、いい政治家にはなれない。
どんな仕事も毎日が想定外の連続だからだ。
想定外を体験しながら、自分なりに基礎を確認する練習を積み重ねなければ、一流にはなれない。

私は、銀行員を辞めた後、
政経塾に行くか大学院に行くかも考えたが、
まだキャリアの浅い国会議員であった江田憲司に弟子入りし、運転手やかばん持ち、裏方から始めた。
どの場面でどう悩んでいるのか、毎日どういうことが起こるのか。
そして、その周りの人達は、何を望んでいるのか。
私はまだ一流ではないが、政治塾でも大学院でも学べない、多くの体験と修練ができた。
徒弟制度はある程度残すべきだと考えている。

したがって、自分が独立して事務所を構えてから、
学生や若いサラリーマンが政治に興味があると訪ねてきてくれても、
今のところは、座学の勉強会などは開いていない。
いわゆる徒弟制度のように、毎日一緒に行動し、一緒に食事をし、
迷うところは彼らに聞いて一緒に考える。
それが、彼らの将来に、大きな糧になると考えている。

激しいグローバル競争の中で、どの業界も、レベルの高い仕事が求められる。
レベルの高い仕事をするには、マニュアルを覚えるだけではできない。
徒弟制度のいい部分もうまく残していく必要がある。

ただ、徒弟制度がうまく機能するのは、弟子はその仕事に命をかける覚悟をしていること。
師匠は、何が何でもその弟子を育てようと思っていること。
この両方がないと機能しない。
両人の信頼関係が必要である。

街頭201407

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